髭がトレードマークの、詩人でもある社長は、園子温監督っぽい?風貌とオーラを放つ弘大の有名人。ひと懐っこくアナーキーな彼の人柄を慕い、個性豊かなアングラミュージシャンがこの箱に集いました。今やすっかり有名になったギャラクシーエクスプレスやピドゥルギウユもパダビ出身のバンドです。

2008年ごろのパダビ。ステージに本棚って、友達の家かと
パダビのラインナップは、それこそノージャンル。ロック、フォーク、エレクトロ、ノイズまで同じ日にブッキングされ、正直あまり上手ではない方も出演する一方で、とんでもなく尖った演奏を見せるミュージシャンも。良くも悪くも弘大で一番ヘンなアーティストが登場するのが、パダビだったように思います。また外国アーティストがふらっとやってきて演奏することもありました(5年前にパダビの前を通りかかった際、中山美穂っぽい人がいるなと思ったら、辻仁成さんがライブしてたというのは良い思い出です)。個性的な企画イベントも多数行われており、自立音楽生産組合が企画する「レコードペホ」(最新鋭ミュージシャンによるショウケースライブ+デモ作品販売)は、まさに神イベントでした。
申請すれば比較的気軽にライブすることができたため、新人ミュージシャンの登竜門というべき場所にもなっていました(ちなみに韓国のライブハウスで、自主企画ではなくオーディションなどを受けライブをする場合、チケットノルマ制はないもののノーギャラということは多い)。また、ライブが終わった後、その場ですぐに2次会が始まり(社長がトッポッキを作ってくれる)、観客も出演者もなく夜更けまで痛飲、終電を逃した人は会場の隅で寝ていくというのはパダビの風物詩でした。私も韓国に来たばかりの時は、ここでいろんな人を紹介してもらったものでした。
パダビの閉店理由は、家賃の上昇とライブハウス経営の難しさにあったようです。たびたび家賃を滞納し、いよいよ追い出されそうになった時にミュージシャンが結束、パダビを舞台に「パダビ・ネバーダイ」というフェスを立ち上げ、その収益で家賃を全納したことがありました(同様に社長が身体を壊してしまったことがあったのですが、その際も医療費を集めるフェスが行われました)。これも社長の人柄のなせる出来事です。

2015年10月に行われた最後のライブ「パダビ しばらくさよなら」には、そうそうたるランナップが登場。アマチュア増幅器(ハンバッさん)が舞台でチャパゲティを煮る横で、社長がトッポッキを煮るという奇跡のコラボが行われるなど、温かな空気に包まれたクロージングとなった
パダビの閉店はひとつの時代の終わりを感じさせる出来事でした。ライブハウスは減るばかりではなく、次々生まれてはいるのですが、建物まるごと新築した資本力を感じさせる箱ばかりで、消防法も近隣からの苦情も無視してそうな、無茶苦茶な面白さには欠けるところがあります。
弘大で10年以上、ほぼそのままの姿で存在する小箱といえば、DRUG/DGBD(パンク)、CLUB FF(ロック)、CLUB BBANG(フォークやロック)、空中キャンプなどがあります。個人的には今年10周年を迎えたストレンジフルーツ(位置)のライブのラインナップが常に面白いなと思っているのですが、弘大でライブ見学を計画の際は、こうした歴史ある空間ならではの、人間味あふれる雰囲気を体験することもおすすめしたいです。