出演アーティストはもちろん、今年は会場が個性的でした。3会場制となり、しかもそれぞれが徒歩10分~15分かかるなど割と離れているため、忠武路と乙支路という雰囲気のある下町を行ったり来たりすることになります。
オープニングである2時の初回から、8年ぶりに音源を発表するサイケポップバンドの「電子羊(チョンジャヤン)」、シンセポップのシン・セハ、ノイズのパク・ダハムと興味深いアーティストが目白押しで、どれを観たらいいのか困ってしまう状況ですが結局出遅れ、3時に出演する、釜山のサーフロックバンド「セイスミ」のライブから観覧しました。場所は工場地帯の中にある「ワンピクセルオフライン」。

乙支路3街の駅から、味のある道を通って会場へ。工場の稼働が止まる日曜日のため、街はしんとしています。

このビルの3階にワンピクセルオフラインがあります。印刷工場が並ぶ一角にあり、同ビルの別フロアにも製本やシルク印刷の工場が。

外の景色とはうってかわり、内部はスタイリッシュ。普段はアートスペースとして活用されているようです(写真のバンドはセイスミ)。

お次は忠武路へと移動。途中の道は庶民的な飲み屋街となっています。フェスの途中で焼肉を食べていた観客もいたようです。

到着したのは、スタジオ、カメラ屋など写真に関連した店や、印刷工場の多いエリアにあるこのビル。地下1階がライブ会場です。
ふたつめの会場、「照光(チョグァン)写真館」は、日中は写真スタジオ、夜はライブスペースとなる空間。51+を主催する自立音楽生産協会の本部となっており、今回のフェスでもメインステージ的なラインナップとなっていました。オリジナルドラマーが兵役中のためバムソム海賊団のドラマーが参加する「クァンプログラム」、ギタープレイが熱い3人組ロックバンド「アンクルアタック」など、人気バンドが多数出演しましたが、なかでもハコがぱんぱんになるほど多くの観客を集めていたのが、ファーストアルバム発表以来、初ライブとなる「ソンキョル」でした。音源の完成度にこだわり、あまりライブをしない彼らですが、今回の骨太感ある演奏もなかなかでした。
51+で演奏するソンキョル。撮影はいつものパク・スワンさんです。
3つめの会場は、乙支路3街駅と清渓川の間の、やはり小さな工場が並ぶエリアにある雑居ビルの5階、「シンドシ(漢字で書くとたぶん「新都市」)です。梨泰院にあったライブバー「コッタン」を運営していた人たちが今年オープンしたお店だそうで、普段はカフェ/バーとして営業しています。51+のシンドシ・ステージは、WEDANCEやタンピョンソンなど既に観たことのあるアーティストの出演が多く、ここにはあまりいないのだろうなと思っていたのですが、いざ行ってみるととても雰囲気のある空間で、日中は日の当たり方が心地よく、夜は怪しげな照明が素敵で、ビールを飲みながら結局長い時間ここに入り浸ってしまいました。
最後にシンドシでのトリであるキム・サウォル×キム・ヘウォン(今年の韓国大衆音楽賞・新人賞受賞)をしっとりと聴いて、地下鉄で帰途につきました。

現地のファンも多く、きっちり盛り上がる「WEDANCE」のライブ。
この日の「タンピョンソンと船員たち」は、気合の入ったダイナミックな演奏を披露してくれました。

別の日に、シンドシの屋上テラスから眺めた街の様子。周囲は基本的に人通りも少なく薄暗いのですが、しかしところどころにある居酒屋前のテーブルでは仕事後のおじさんが酒盛りをしており、味のある街並みを形成しています。
古い街並みと音楽のコラボが楽しい、素敵な都市型フェスだと感じたのですが、面白いのが街(行政)の力を借りず、勝手にやっているのだろうということ。地域住民も、今日はなぜこんなに若者が多いのかと不思議がっていたはずです。
最近は、今年の51+の舞台にもなった乙支路周辺に、アートスペースが移ってきているようですね。その理由は、古く小さな工場が店をたたみ、家賃が安くなってきているから。夜になると人気がなく、ライブをしても怒られないなどの理由もありそうです(ちなみに私の友人の写真家は、乙支路3街の世運商街という電気街ビルの一室を作業室として借りています)。
映画「パーティー51」でも、ミュージシャンたちが家賃の高騰する弘大を離れ、郊外にライブできる場所を探す様子が描かれていますが、もともと工場地帯で2010年ごろには多くのアーティストの拠点となった文来洞も、近年は人気上昇とともに家賃が上がってしまいました。2011年に文来洞に生まれたアーティスト共同運営のライブスペース「ローライズ」も、2013年には運営を終了しています。
なお、映画で登場するローライズ以外の「次なる空間」ですが、梨泰院のライブバー「コッタン」は、地域の再開発により2013年に閉店。韓国芸術総合学校の学生会と自立協会のメンバーが共同運営していた、同学校内の地下にある空間「テコンブンシル(対共分室)」は、家賃なしで使うことができたのは良かったのですが、学生会の世代交代とともに消滅しています。対共分室とは、80年代に安企部が反政府的な疑いのある者を拷問していた秘密の場所のことで、この地下室も昔は対共分室だったらしいという、嘘か本当かわからない逸話から命名されているのですが、冬場に訪れたら拷問のように寒かった記憶があり、いろんな意味で最高の空間でした。
ソウルでのライブをチェックされる方は、今年の51+の3会場のスケジュールも確認すると面白いと思います(早速ですが8月2日午後4時シンドシにて、あのユンキーがライブをするようですね。対バンはWE DANCE、アナキンプロジェクト、000000000)。あと現在、ソウル市立美術館にて、ライブ企画者パク・ダハムの収集物をベースに韓国アンダーグラウンドシーンのこれまでを眺望する展示、「サブカルチャー:アングリーユース」が開かれており(8月30日まで)、こちらも要チェックです。